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真心ブラザーズ
 桜井秀俊と倉持陽一(YO-KING)によるユニット。
 真心ブラザーズ OFFICIAL SITE

ねじれの位置 (1990)

 一作目にして人を食ったようなユーモアとクールさが存分に発揮されている。タイトルだけでも「きいてるヤツらがバカだから」「スランプ」など強烈だし、歌詞カードの桜井画伯のイラストも味がある。 全体的にインディーズのようなノリで痛快である。 惜しむらくは「うみ」と「時計が急ぐけど」が未収録なこと。


2.君と金さえあれば
 あなたがいればそれだけで良い、というようなラブソングはとても響くものがある。でもこの曲の、君だけじゃなくてカネも要るという訴えは現実的だ。真心がある。

4.ビーンマンのうた
 ビーンマン(マメな男)はモテる、っていう歌。人間は顔じゃない、金でも心でもなく、ただマメに動ければそれで良い…らしい(本当か)。
 思いついたことは、すぐやるべきである。
 YouTube [TV(1989)]


5.ともだち
 「楽しい時間を共有するのが友達」という友達観の歌詞。 「一生の友達」など幻想だよ。変わり続ける自分の気持ちや環境、それに伴い時々で友達も変わっていくよ…という友達観。

6.分類
 ぼくは分類するのが好き
 自分のちっちゃなちっちゃな座標の中でジャンルにこだわる

 ずいぶん達観している感じがする。若いのにハングリー感がない。
 音楽に限らず、創作で食べていく人の作品には、必死に悩んだ痕跡が見受けられることがある。だが、真心の作品にはあまりない。この頃なんか特に、普通にサラリーマンになろうとしていたら成り行きでデビューしてしまったわけだし。 つまるところ、音楽以外でも普通にできるバランスの良さがあり、それが余裕を感じさせているのだろう。


13.うまくは言えないけど
 心に灯をともしてくれる人の存在を歌った素朴な曲。
 「ともだち」同様、人との距離感をテーマとしてる。他人と分かち合えるのは楽しい時間だけ、そこで力を充電たら「タフな世界」とは自分だけで向き合わなければならない…という倉持の「人付き合い観」が読み取れる。
 YouTube [TV(1989)]

勝訴 (1990)



6.ただただ、だらだら
 私は一貫した主義主張などなく
 私のひよわな精神と肉体は 矛盾という本棚を整理してゆく苦行には もちそうにありません

 頑張らない、というのは倉持のテーマだと思う。でも、この曲はどこか自嘲的だ。劣等感や暗さが垣間見える曲が多かった。

あさっての方向 (1991)

 鬱屈したやるせなさや「思いついたことを堂々と言える人」への憧れが目立つ。 次作以降を聴いてからこちらを聴くと、変化に驚く。倉持陽一と言えども人の子だった、と思った。同級生は未収録なのが残念。


1.あんなに好きだったのに
 どんなに好きな曲・好きな人・好きな服であってもいつかは飽きてしまう、という歌詞。「コロコロと移り変わっていく興味」というのも倉持詞に頻出するテーマである。

3.ウジ虫以下
 自分の良さばかり語ろうとする人のことを「ウジ虫以下」だと思いつつも、そんな感情を表せずに不器用に笑って生きてきた…という歌詞。最後の叫びにカタルシスを感じる。

5.軽はずみ
 「軽はずみな奴」への憧れ。
 「周りを見ず、頭に浮かんだことを軽く実行し、いつもスッキリしている人」を羨んでいる。

KING OF ROCK (1995)

 名義が「真心ブラザーズ」となり(前作までは「THE 真心ブラザーズ」)、ロック色が強まった。倉持も超人化し、歌詞が病的にポジティブかつエネルギッシュになった。 歌詞からイメージされる超人的な倉持像は「キャラ作り」と言うか、彼の憧れている「なりたい自分」なのではなかろうか。なりたい自分を自分自身に言い聞かせ続けることで、実際に近づこうとしているように思う。自己啓発である。

 歌詞カードに歌詞は掲載されていない。リスナーに同調を求めず、一方的にハイな心境をまくし立てるスタイルである。


1.スピード
 ナイキがアスファルト踏み締めて 今日もオレがオレの街を警備にやって来た
 オレの仕事は欲望執行人

 うだうだ考えずに動くぜ!欲望をどんどん満たし、どんどんイキイキしていくぜ!という感じのリリック。ラップと言えるのだろうか。リスナーにお構いなく一方的に自分のハイな心境をまくし立てて自分だけ躁状態を加速させていくような挑発的な曲。


2.高い空
 これずっと煙草吸いながら酒飲んでいる歌だと思っていた。火葬の煙だったとは。 あまりにカラッとした雰囲気なので前情報ないと葬儀の歌と気づけないと思う。

3.愛
 考えがコロコロ変わるってフレーズが倉持らしい。
 この歌詞を意識したのだろうか。「興味の対象がガンガン変わっていくほうが絶対〝愛〟があると思うな、俺。惰性でなあなあとかより」、と桜井が、のちのインタビュー(CDでーた1995年12月20日,角川書店)で語ってた。
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4.マイ・バック・ページ
 ボブ・ディランのカバー。歌詞は倉持訳。
 僕はこの曲を聴くと、頭の中で拓郎が再生される。字余り感が似ている。
 拓郎が倉持陽一に与えた影響は大きいだろう。話すように歌うところが似ている。そういうラフな格好良さ、気持ち良さが二人の持ち味。音楽を通して「みんなこういう風に身軽に、ラクチンになれるんだよ」って語りかけてくるようなところがある。
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5.すぐやれ 今やれ
 27年2ヶ月の時間を取り戻すくらい心を開き カール・ルイスでフルマラソン
 本当に前作までが嘘だったかのようなテンション。


11.STONE
 尿管結石で激痛を経験したYO-KINGが、健康体の素晴らしさを歌った曲。死生観に影響を与えた事件だったのだろう。

サマーヌード (1995)



1.サマーヌード
 桜井の作る切なくもポップな曲世界と倉持の健やかなキャラクターがマッチした夏の名曲。後のセルフカバーをはじめ、クラムボン、山P、夢アドと数年おきに誰かしらにカバーされる。

 YouTube [PV] 真心もパフィーも若い。はしゃぐ4人の笑顔が良い

GREAT ADVENTURE (1996)



3.拝啓、ジョン・レノン
 どんな人でも僕と大差はないのさそんな気持ちで世界を見ていたいという憧れの人も対等とみなす歌詞が印象的。
 連呼しているビートルズの曲名はお気に入りの曲なのだろうか。

 YouTube [LIVE(2001)] ハルとシンちゃんと。音楽を遠ざけ調理師生活をしているハルにYO-KINGがしきりに声をかけていた頃の映像。でもそういう文脈抜きに純粋に格好いいライブ
 YouTube [TV(2009)] チャットモンチーともセッション

6.アーカイビズム
 一生ソフトの受け手でOK OK 映画音楽テレビマンガ
 それらを受けて受けて受けて受けて それが生きてる理由 死なない理由

 アーカイビズム=資料保存主義である。流れに乗っかって受け身の人生を享受しよう、と前作のハイテンションそのままに自分への愛と物欲を叫ぶ曲だ。

 しかし倉持は5年後の活動停止時のインタビュー(ROCKIN'ON JAPAN 2001年12月号)で、もう今はそうは思っていない、と発言していた。良いものは体験し尽くして飽きた、結局自分自身を使った遊びが一番楽しい。それなりに経済的に余裕が出来たのもあるし、金になる・ならないは別としてなんでも表現したい、という心境とのことである。 また、記事ではこうも言っている。30くらいまで物質とか楽しいことをガソリンにして生きてこれるんだけど、なんかやっぱり愛をガソリンにしていかないと上手く暮らしていけなくなるんだよ、と。

 この曲の当時は、「インプットだけで楽しめるじゃん」っていう挑発的な物言いで注目を浴びたかったのかもしれない。でも歳を重ねると人間、愛なしでは生きていけない。YO-KINGと言えどもそうなのだ。さんざん自分を褒め称えまくったこの頃があったからこそ、もっと愛情をばらまけるようになったのかもしれない。このインタビューは真心とソロでの意識の違いにも言及されていて興味深かった。

I will Survive (1998)



7.ENDLESS SUMMER NUDE
 サマーヌードのセルフカバー。
 YouTube [PV] 沖縄の海と空、無造作な映像から漂うリアルな90年代感、世代の人にとってはセンチメンタルなMV

EVERYBODY SINGIN' LOVE SONG (1998)

2.いらだちの日々
 想像力がふくらみ過ぎて こんなはずじゃないと いらだっていた
 ぼくはまだまだイライラしているぜ 性欲物欲まだまだ増えてくる

 高校時代(麻雀、エロビデオ鑑賞、原チャリで交通違反、等)を淡々と描いた歌詞。手におえず膨らむイメージやイライラを肯定している。2分ほどでアルバムにも未収録だけどお気に入り。
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GOOD TIMES (1999)



2.サティスファクション
 オレは今のままで満足 今持ってるモノに浸る 無い物ねだりで悩まない 努力修行も必要なし

 現状を全肯定していてすがすがしい。でも、この歌詞は人によりけりであろう、「オレは」って言っているし。時として、「今持ってるモノに浸ること」と「努力修行」がイコールとなる場合もあるだろう。たとえば、「何かを出来るようになりたい!やり遂げたい!っていう思い」しか持っていない、というか、そういう考えに支配されてしまって、必死になって無理している時とか。
 倉持陽一は才能の男という感じがする。汗を流して努力している人を横目に、無理せずリラックスして楽しみながらやる方法をあみ出す、そういう才能。
 YouTube [PV]


3.突風
 僕はまるで日光や突風に生き方を左右されるちっぽけな植物だ、という歌詞。諦念、それでも自分を肯定するしかない…という感じか。
 YouTube [LIVE(2001)]


7.NO BRAIN ROCK
 誰かが言うほど僕は考えてない いつも いつも その場でさ
 考えるよりも感じてたいのさ

 「考える」という言葉が「意識的に思考をコントロールする」感じなのに対し、「感じる」というと「自分で制御できない、その場の思いつき、受動的なもの」というニュアンスがある。倉持陽一は、一見考えているように見える。でも実際は考えているのではなく、「感じ続けている」だけなのかもしれない。自然と次から次へと思い浮かぶだけなのかも。
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真心ブラザーズP.D.C.ノート (2001)

   「TVBROS.」連載のコラムを収録。倉持と桜井の私生活を覗き見ることが出来る一冊。

 倉持の文章で印象的だったのは、ぼくは不まじめな表現者なのでそうではないのだが、時々ギリギリのところでやってる切迫感のようなものを感じるような人がいる。「アンタ、すばらしいよ」と声をかけたくなる、というところ。
 そんな彼は「無理な努力はしない人」界のカリスマだと思う。ひょっとしたら自分もゴキゲンに生きれるのかも、と思わせてくれるようなところがある。

夢の日々〜SERIOUS & JOY〜 (2001)

 ほとんどシングル曲なのにアルバムとして統一感がある。別れの三部作を筆頭に内省的な歌詞の比重が大きいアルバムだと思う。後悔・切なさ・やるせなさの中であがいているようなソウルフルな歌詞であり、他のアルバムと比べると人間味がある、というか等身大という印象を受ける。拓郎、ディランといったフォーク嗜好も感じられる。

 ただ初めてセルフプロデュースをしなかったということもあり、実態としてはリアルな心情の吐露というよりは、お題に沿って歌詞を書き、曲を作り、客観的な視点を尊重して作られたようだ(参照記事ナタリー 真心ブラザーズ 20年の歴史を紐解く赤裸々トーク)。さしずめ、ポジティプ超人YO-KINGが自分以外の人の気持ちをイメージして作った実験的なフィクション、といったところか。

 個人的にはここからハマったので思い入れがある(図書館にこれだけが置かれていた。リクエストか)。尾崎世界観(クリープハイプ)やラブリーサマーちゃんら若い才能も本作の曲を絶賛していたし、ひそかに人気だ。